『フレンチアルプスで起きたこと』:男も女も、みんなやらかしている

snowtherapy

 2015.7.11 ヒューマントラストシネマ有楽町

『フレンチアルプスで起きたこと』/リューベン・オストルンド/スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー/2014 ★★★★★

これはめちゃくちゃ面白かったです!実際たいしたことは起きてないのに、でも大変なことが起きてます。「こういうこと、あるよなー」と、誰もが身につまされる部分があるのでは。感想は完全ネタバレで、ラストの解釈も思いっきり書いてます。

【あらすじ】
トマス(ヨハネス・バー・クンケ)とエバ(リサ・ロブン・コングスリ)の夫婦は、長女ヴェラ(クララ・ヴェッテルグレン)と長男ハリー(ヴィンセント・ヴェッテルグレン)の二人の子供に恵まれ、そこそこ裕福で、絵に描いたような幸せファミリーである。トマスは普段仕事の虫だが、家族サービスのために、5日間のフレンチアルプスへスキーバカンスにやってくる。2日目の昼、ホテルのテラスレストランで一家が昼食をとっていると、突然雪崩が襲ってくる。実際には被害はなかったが、その時トマスが一人で逃げたことにより、一家の空気はぎくしゃくし始める。

【感想】
これは、「本当はそうじゃないのに“理想の父”であることが求められている現代の男たち」がテーマのようで、実際にそういう作りになってます。まず冒頭で“理想の家族”という虚像が撮影された写真によって示されます。そして以後それがどんどん崩れていく構造です。その崩壊の中心になっているのは、“理想の父”像です。確かに、「女性を“理想の母・理想の妻”の枠におさめようとしないで!わたしを束ねないで!」という叫びは社会的に認められている感がありますが、それを言うなら男性側だって同じなわけで、そこには大いに共感します。でも男性側のそういう叫びは黙殺されているし、何より男性自身が「えっ、そんなことないよ、俺家族守るし」と思っている(んですよね?)、ということもあって、このテーマが取りざたされることはあまり多くありません。

この映画とよく比較されているようですが、『ゴーン・ガール』は確かに同じテーマを扱っていました。が、あちらはバリバリの派手な展開に、マスコミが騒いだり人が死んだりと規模がデカい。しかしこちらは非常に地味で、要するに「雪崩もどきが来たときにお父さんちょっと焦って逃げちゃったよ。でもみんな無事だったね」以外の出来事は起きていません。でも、そんな些細なことが家族にとっては大きな問題になるわけで、そのあたりをひたすら長回しカメラでとらえる家族のやり取りで丁寧に見せているところが『ゴーン・ガール』とは全然違うところです。こちらのほうが身近な分、恐ろしいと思いました。

で、これはもう「お父さんやっちゃったね、確かにあれはマズかったよ、でもとっさの判断だし仕方ないよね。でも妻めちゃくちゃ幻滅してるね」という感じで、結構トマスが気の毒です。はじめは子どもも冷たくて、四面楚歌です。妻は人前で「この人、一人で逃げたのよ」を2回も繰り広げるし、しかも2回目はもう妻も精神がおかしくなっていて、泣き始めたりして、巻き込まれたカップルも気の毒です。その直前の妻の、「なんかちょっと変・・・かな?」と周りに思わせるような発言が始まったとき、スクリーンには妻の首から下しか映らなくて、でもずっとそのまま微妙に変な発言を続けていて、そのシークエンスの最後は妻の後姿、しかも逆光という、完全にホラーな演出でかなり面白かったです。あとこの巻き込まれたカップルも40代男(子ありバツイチ)と20歳女(水商売)という「あっ察し」な組み合わせなのですが、この若い水商売の女の子がこういう時すごく良い子だったり冷静だったりするところなんかも妙に現実味があって良かったです。あと事件前から長男が若干ワガママだったりするところとかも良かったですね。あのくらいの歳の男の子ってあんな感じですよね、少なくとも姉がいる弟の場合は。姉もちょっとシラッとしてるし、子供を天使のように描いているでもなく、バランスが素晴らしいと思いました。

話が逸れましたが、とにかくこの映画は、「いざというとき母性本能で真っ先に子供を守る女性と、そうではない男性の落差」が描かれて、トマスが責められて、なんとか汚名返上して・・・という流れで進むのですが、それだけの映画だったらこんなに面白くはならなかったと思います。私はやっぱり、この妻エバが気になりました。私は、この映画は「母としての女性の正しさと、“理想の父”になれない男性」を描いているのではないと思いました。なぜかというと、エバもガッツリとウザいからです。

中盤、家庭を持ちながらも一人でこのスキーリゾートに来ていて、適度に浮気して、自由に人生を楽しんでいる女性と話す場面があります。それは雪崩事件後なので、エバは精神的におかしくなり始めています。それがちょっと爆発したのか、「それでいいわけ?子供が可哀想じゃない!」的なことを言い始めます。ほんと、自分が幸せじゃないからって、自分とは全然別の価値観をもって人生を楽しんでいる人(同姓)に向かって説教たれる女、心底見苦しいと思います。結構いますけどね。自分も気を付けようと思いますが、どこかでやらかしてるかもしれません。なのでこの映画では、エバを「母は偉大である」みたいには描いていません。むしろ女性としての醜さを露呈させています。

そして極め付けがラストです。帰りのバスが、ただでさえ危なっかしくて細い道を、乱暴な(へたくそな)運転によってあわや道から転落、の危機に陥ります。その運転にブチギレたエバが、「降りるからドアを開けて!!」とヒステリックに叫び、乗客もなんだか勢いに負けて(?)ゾロゾロとバスから降ります。その時は件の40代バツイチ男が「女性と子供が先だ」と、ちょっと男らしいところを見せて乗客を誘導しますが、実は真っ先にバスを降りたのはエバです。息子ハリーが「ママー!!」と叫んでいるにもかかわらず、さっさと降りています。しかも、乗客が降りたあと、バスは普通に何事もなく走っていきます。降りる必要なかったというか、降りてしまったはいいけど、歩いて峠を越えるわけ?という現実にやっと気付きます。その時エバは「でも、本当に危なかったわ」などと言い、ヒステリーを起こした自分を取りつくろっています。これが私には、これまでさんざんトマスの情けなさを描いてきたけど、実はどっちもどっちでしたというオチだと思えたので、素晴らしいと思いました。浮気しながら人生を謳歌している、あの女性だけが「バスに残る」という判断をしているのも効いています。しかしながら、このラストについては蛇足とか意味不明という口コミをネットで多く見かけ、何か私間違った解釈してるのかも・・・とちょっと自信がなくなりました。いや、でも、やっぱりそうだと思うのですが。なので、私の解釈では、この映画は誰に肩入れしているわけでもない、ということになり、そこが良いと思いました。

あとは、夜のアルプスとか、そこをキラキラと泳ぐドローンとか、絶景の中でのスキーとか、印象深い映像もたくさんありました。音の使い方も良かったです。評価が分かれているのかもしれませんが、個人的には「最高!!!」でした。

広告

『フレンチアルプスで起きたこと』:男も女も、みんなやらかしている」への2件のフィードバック

  1. 本日観たのですが、おっしゃる通りだと私も感じました。
    特にラストが底意地悪くて最高でした。
    バスに残る奔放な女。
    結局のところ旦那ではなくヒゲに娘を抱っこさせる妻。一度断ったタバコに火をつける夫。意地悪だなーって(^^)

    • 再訪&コメントありがとうございます!
      ラスト、最高でしたよね。「底意地が悪い」って、まさにそれですね!それまでの流れでは妻に同情しつつ夫も気の毒、という感じで寄り添っているように見せておきながら、ラストで底意地悪く一歩引いたところから突き放された感じがして痛快でした。ぴったりな表現ですね!

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中