『サンドラの週末』:サンドラの顔と、労働者たちの顔

Marion Cotillard in Two Days, One Night

2015.5.24 ヒューマントラストシネマ有楽町

『サンドラの週末』/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ベルギー・フランス・イタリア/2014 ★★★★

ハズレなしのダルデンヌ兄弟の新作、それも珍しくスター女優を起用した本作は、去年のカンヌ映画祭でも大きな話題となっていました。まぁ、悪いはずがないのですが、とにかく感想を書きます。ネタバレなしです。

【あらすじ】
夫と三人の子を持つサンドラ(マリオン・コティヤール)は、うつ病からなんとか回復し、生活のため職場へも復帰しようとしていた矢先、解雇の報せを受ける。それも、社長がサンドラの復職と1000ユーロのボーナスどちらかを選ぶよう投票させ、その結果14対2でボーナスが選ばれ、解雇が決まったというのだ。サンドラは絶望するが、見方となってくれた同僚の働きかけにより、三日後である月曜日に再投票が行われることが決まる。夫のマニュ(ファブリツィオ・ロンジォーネ)は、打ちひしがれるサンドラを必死で励まし、サンドラは土日の間に従業員一人一人の家を周って、自分の復職に投票するよう説得することになる・・・。

【感想】
観る前に、あらすじを知ったとき、ちょっと「えっ」と思ったところがありました。まず、従業員一人の解雇を、他の社員の投票で決めさせる(しかもボーナスと天秤にかけて)というやり方は果たして現実に起こり得るのか、というところ。社長が一方的に命じるほうがまだ自然な気がします。そして、その結果ほとんどの同僚がボーナスを選んだことに対し、「ボーナスを諦めて私の復職を選んで」と説得して回る、という行為。いやいや、いくらマリオン・コティヤールが美しくてピンクのタンクトップからブラ紐がはみ出してるからってそりゃ無理だぜ、ボーナス欲しいし、他の仕事探せばいいじゃん、そんなこと普通頼めないぜ。なんだかあんまりリアリティのない設定だなぁ・・・と、思いました。

で、実際に観てみて思ったのは、「設定にはリアリティがないけど、そこから湧き上がってくるものにはリアリティがある」ということでした(いや、もしかしたらベルギーの、この労働者の街ではリアルな設定なのかもしれませんが)。この設定はもしかして、サンドラを狂言回しのようなものとして、彼らのほんの数分のやり取りから、町の労働者全体の生活や苦しみ、そして少しの温かさを映し出すためのものなのではないか、と思いました。

同僚16人には老若男女いて、移民も多く、決して豊かとはいえない人ばかりです。赤ん坊が泣いていたり、コインランドリーに行っていたり、さりげない細部からもそれが伝わってきます。サンドラが訪ねて行ったときの彼らの表情は、後ろめたさからか皆固く、必死の振舞いからも、生活のためにボーナスがどうしても必要だった、ということが伝わってきます。事情は十人十色ですが、共通しているのは「贅沢をするためではなく、生活のため」ということでした。そのため、その弁解を聞くときのサンドラも、まさに自分も生活のために復職を願っていることから、彼らのことを責められず、一生懸命「気にしないで」と言って立ち去ります。映画は同僚たちのこともサンドラのことも、悪人にはしません(まぁ、ダルデンヌ兄弟がそんなことをするはずはないのですが)。観る側としても、もちろんサンドラを応援したくはなりますが、私は正直言ってサンドラ側についた人がいることのほうに驚いたクチなので(性格悪いんでしょうか・・・)、その意味でも、みんなに感情移入できてしまい(社長と主任以外)、結末がどうあって欲しいのか、見ながらわからなくなりました。

ストーリーの上では「投票結果は果たしてどうなるのか?」というのが一つのサスペンスになっているのですが、いざ結末になってみると、意外なものではありませんでした。しかしさすがはダルデンヌ兄弟、その先にもう一つのどんでん返しがありました。この時のサンドラはあっさりと結論を出しますが、それはこの土日、同僚の家を説得して回ったことで培われた強さによるものではないかと思います。ラストのサンドラの表情は、そのことを物語っていると思いました。

ストーリーは単純ですが(あらすじ書きやすかった・・・)、浮かび上がってくるのは幾人もの労働者の顔で、単なるサンドラの成長物語ではないところがやっぱりダルデンヌ兄弟なんだなぁ、と思いました。あと、常連のファブリツィオ・ロンジォーネ演じる夫のマニュが、今年観た映画の中で結婚したい男No.1(2位はベン・ウィショー。役とかでなく、とにかくベン・ウィショー)でした。彼の、妻を支える深い愛が、この悲痛なトーンの映画をどれだけ明るくしてくれたかわかりません。

最後に。
マリオン・コティヤールは勝間和代に似てないよ!

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『サンドラの週末』:サンドラの顔と、労働者たちの顔」への1件のフィードバック

  1. くつしたさん、こんにちは。

     先の拙サイトの更新で、こちらの頁を拙日誌からの直リンクに拝借したので、報告とお礼に参上しました。

     >あんまりリアリティのない設定だなぁ・・・と、思いました
    同感です。僕も拙日誌に記したように「フィクショナルな作劇装置のような気がして」仕方がありませんでした。
     そのうえで、くつしたさんが「設定にはリアリティがないけど、そこから湧き上がってくるものにはリアリティがある」とお書きのところに大いに賛同。いや、全く同感です。

    どうもありがとうございました。

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