『アメリカン・スナイパー』:イーストウッドは主人公を英雄として描いたか

americansniper

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2015.2.21 新宿ピカデリー

『アメリカン・スナイパー』/クリント・イーストウッド/アメリカ/2014 ★★★★

感想は、1.イーストウッドは主人公を英雄として描いたか 2.イラクの人々を侮辱しているか の順番で書きました。前置きが長いのですが、真ん中ぐらいから感想が始まります。

【前置き】
ところでこの映画が公開された2月21日(昨日)、事情により私はこの映画を2回観ました。もちろん、この映画が良かったから、というのが事情のうちの何割かを占めていることは事実です。しかし、主な理由は、身動きのとれない場で強烈に人間を苦しめるアレ、すなわち「尿意」に、人生最大の攻撃をくらったからでした。(次の段落はそのことしか書いてません。)

イーストウッドが撮ったイラク戦争もの、というだけでも観たい度120%なのに、あの素晴らしい予告編。楽しみすぎて、初日初回のチケットを3日前から確保し、前日は早めに寝るなど万全の態勢を整えました。そして当日朝、食事をとり、着替えて予定通りの電車に乗り込み、電車内ではイラク戦争についてもう一度復習するなどし、そして最大の集中力をもって鑑賞に臨むため、レッドブルを注入しました。が、これがいけなかった。上映開始10分後、「あれ?なんか、尿意が・・・」と思ったのですが、当然席につく直前にトイレには行ってきたこともあり、「まさかね、ふふふ」と自分に対して謎の笑顔を見せて誤魔化しました。しかし、「あ、もうこれはすぐそこまで来ている」と確信したのが、まだ第1回派遣の最中。「・・・まぁ、なんとかなるでしょ」と無理矢理高をくくり、映画に集中しようとしましたが、どんどん尿意は強くなる一方で、下腹部には鋭い痛みが走り、手足は震え、吐き気を覚えました。「もう、これはだめかもしれない」と思ったのが第2回派遣と第3回派遣の間。中座してトイレに行くしかない、とも思ったのですが、いつもの癖で左右ど真ん中の席に座っており、中座するには「すみません、すみません」と言いながら多数の人の前を横切らなければなりません。それも、行きと帰りの2回です。そんな迷惑をかけるわけにはいかない。私の中のマナーの鬼が、それこそ鬼の形相で私に言ってきました。「普段“映画館でトホホな目に遭った!”などと吠えているお前が、トホホを振り撒く側になるなど言語道断。 我慢しろ」。私は我慢しました。そして「第4回派遣」の文字が画面に出たときは、「ま、まだ続くのね・・・!」と、絶望的な気持ちになりました。ベルトを緩め、ウエストを持ち上げて刺激を軽減していましたがほとんど効果はありません。画面の中の負傷兵の痛みが他人事でないような錯覚に陥りました。しかし、なんとか耐えました。待ちに待ったエンドロール。しかしエンドロールに重要な映像が重なっている・・・。エンドロールになったからといってパッと退出できないタイプの映画でした。もう、ここまで来たからにはそれも耐えました。やっと文字だけになったとき、「すみません、すみません」と言いながら退出しました。エンドロールを最後まで観ないなんて、泣けてきました。涙目になりながら、できるだけ水平に、振動が生じないよう最大限配慮した奇妙な歩き方で移動し、待ちに待った便器とのご対面。こういうとき不思議なのが、あんまり出ないことです。「あー、スッキリ!!」という気分になれるような出方をしてくれません。4割ぐらい体内に残っている感じがしたまま、劇場を後にしました。私は思いました。「映画の記憶が尿意にリンクしているのは間違っている。」ちょうどSMTメンバーズのポイントがたまって、無料で観られるチケットが発行できる状態でした。「観よう、もう一度・・・。」私は決意しました。時間つぶしのため喫茶店に行きました。そこのトイレで、やっと全部出てくれました。私の体内戦争は終わりました。

 

前置きが非常に長くなりました。しかも汚いし、どうでもいい。でも、とにかく私はこの映画を既に2回観たのです。その上で、感想を述べます。もうあらすじを書く元気がなくなったので、あらすじはこちらでご確認ください。

【感想】
感想は、1.イーストウッドは主人公を英雄として描いたか 2.イラクの人々を侮辱しているか の順番で書いてみようと思います。ネタバレしてます。

1.イーストウッドは主人公を英雄として描いたか

私は、主人公は決して(イスラム過激派が思うような)悪魔としては描かれていないけれども、英雄としても描かれていないと思いました。なので、この映画を戦意高揚映画だとか保守的だとかいう人もいるようですが、ちょっと理解できません。主人公は、決してかっこよく描かれてはいませんでした。

まず映画の冒頭、予告編でも使われていた、自爆攻撃の可能性のある子供を撃つか撃たないか、という緊迫した状況が映し出され、引き金に指のかかったショットから、銃声によって主人公カイル(ブラッドリー・クーパー)が少年時代に鹿を仕留める場面に繋がれます。カイルが少年時代から射撃の才能を持っていたこと、そして弟のジェフ(キーア・オドネル)がいじめられたときに、いじめっ子を殴って仕返しすることのできる体格と力を持った少年であったことが描かれます。そして彼らの父親はそれを讃え、「人間には羊、狼、番犬の三種類がいる。黙ってやられる羊にも、ただ攻撃する狼にもなるな。番犬になれ」と息子たちを教育します。さらに一家は敬虔なクリスチャンです。彼らの家はテキサスにあり、テキサスというのはこの父親のような考え方の人が多く、銃が身近であり、敬虔なクリスチャンであるといった、保守的な人が多い地域だそうです。なので、カイルが大人になってからネイビー・シールズに入隊してアメリカ一の狙撃者になったというのは、育ってきた土壌から考えると必然的であるともいえます。シールズ入隊前のカイルはカウボーイを目指して夜な夜なロデオに繰り出しており、その勝者の証である金のバックルのベルトを誇らしげに手に取り、これをガールフレンドに見せれば興奮するに違いない、などと発言します。そしてそのガールフレンドを尻軽だと非難した弟にブチ切れて物を投げつけるなどします。しかも実は浮気されてます。これ、かなりダサくないですか。ただの田舎のジャイアンです。洗練などという言葉は彼の辞書には載っていなさそうだし、教養なんかも皆無な印象です。「女はみんな力強い男に足を開く」と信じて疑わないこの単細胞っぷり。そんな彼は、テレビのニュースでアメリカが襲撃される様子を観て軍隊に入ることを決意します。「弱い者は俺が守る!」の、「番犬」の精神で生きてきた愛国者である彼にとっては当然の成り行きといえます。ちなみに、この流れではまるでテロとイラクが関係していたかのようだ、という批判がありますが、このテロと、イラクに戦争をけしかけることとに関係があったかどうかは、カイルにとっては考える必要のないことだったのかもしれません。

そして映画はネイビー・シールズの訓練模様に移ります。この訓練模様ですが、私は結構茶化して描かれているように感じました。「このような選ばれた者にしか耐えることのできない過酷な訓練を経て英雄は誕生しているのである(キリッ)!」のような、訓練礼賛の気配を私は微塵も感じませんでした。ひたすらマッチョな世界を、「まぁだからさ、こういうのに耐えるにはこういう奴じゃないと難しいわけよ」という感じで描いているように思いました。なので、イーストウッドはクリス・カイルという人物を、かっこいい英雄というよりは、ただのマッチョな良い奴、要するに、脳みそも筋肉で出来ているタイプとして描いていると感じました。とても底意地が悪いと思います。ただ、敬意は払っていると思います。それはラストシーンを見れば明らかです。しかしこのラストシーンにも二重の意味が込められていると思いました。これについては後述します。

カイルは戦場であるイラクに赴いて、人並み外れた活躍をします。しかし、第2回、第3回と派遣の回数を重ねるごとに、仲間の内に「この戦争が正しいのかどうかわからない」と漏らす者が出てきます。シールズではなく一般の兵士としてイラクに来ていた弟のジェフに偶然会ったときにも、弟は兄に「もう疲れた、こんなところクソだ」と言います。カイルはそんな彼らに戸惑いつつも、しかし次の瞬間にはほとんど問題にすることなく「俺たちは野蛮人から祖国を守っている」というロジックによって自分を納得させ、戦いに邁進します。保守派のアメリカ人からすると、なんて理想的なアメリカ人なんでしょうか。私は、この「理想的アメリカ人」が「番犬」たろうとして戦地へ赴き、160人もの人を殺めた結果として、国へ帰ってからPTSDに苦しめられ、壊れそうになりながらも、精神科医には「彼らは野蛮人だから殺しても良い。俺は国を守った。悔やむことなど何一つない」と答える姿に、はっきりとアメリカそのものを象徴させているように感じました。それは批判的という以外の視点から語ることは難しい類のものであると思います。なので、イスラム教の人々を何度も「野蛮人」と呼んで憚らないこの映画は好戦的な映画である、という捉え方は少し違うと思います。イーストウッドは、「野蛮人」と呼んだ結果がこれですよ、帰還兵はもう「野蛮人」と呼び続ける以外に道がなくなってしまって壊れそうになっているのですよ、と言っているのではないでしょうか。「野蛮人」と呼ぶカイル(というよりアメリカという国)に批判的な視線も投げかけていることは間違いありません。

ただし、前述の通り、イーストウッドはカイルに敬意も持っていると思います。国のためと信じて戦った、そのこと自体に対する敬意です。エンドロールで「Directed by Clint Eastwood」の文字は、カイルへの追悼の意を表明する星条旗が無数にはためく、実際にその事件が起きたときに撮られた映像に重なります。流れる音楽はエンニオ・モリコーネの“Funeral(葬儀)”です。思わぬ形で亡くなった一人の男への追悼の意が示されています。しかし、そこで映し出される無数の星条旗は、同時に危険さも孕んでいることを、その後のエンドロールを無音にすることで、イーストウッドは雄弁に語っているように感じました。エンドロールでは“Funeral”は流れないのです。このことは、イーストウッドがクリス・カイルを無条件に英雄として描いているのではないことの証左ではないかと思いました。

2.イラクの人々を侮辱しているか

映画の中で、彼らが「野蛮人」と呼ばれていることについては前述しました。しかしそれはイーストウッド自身がそのように呼んでいるのではないことは間違いありません。では、映画全体を通してイラクの人々がどのように描かれていたか、考えてみました。

イラク側で野蛮だったのは、“虐殺者”です。彼らは過激派で、ISの母体となる原理主義組織を立ち上げるザルカーウィーの手下です。イラクの子どものあの殺し方からして、これは野蛮で残虐と言うほかありませんでした(あの殺し方は、ISによる日本人殺害事件後の今、あの事件がフラッシュバックした人も多いのでは)。しかし、この虐殺者に殺されるのが一般のイラク人であったところから、この映画はイラク人そのものを野蛮人として描いているわけではありませんでした。あの一家の主は、カイルたちに「避難区域だ、なぜここにいる!?」と恫喝的に聞かれたとき、「私の家だ!」と答えました。あの一言には、過激な連中と、侵略者(アメリカ軍)と、両方に怯えて暮らさなければならない怒りが込められていたように思いました。彼らの家は、イスラム教的な壁の装飾や照明、窓枠の形などの一つ一つが美しく、彼らの生活が見えて、とても悲しくなりました。戦場が埃っぽく殺風景で色彩に乏しいのに対し、かれらの家の中はとても色彩豊かでした。それは実際にそうで、再現しただけなのかもしれませんが、その後彼らの家と同じような、イスラム圏特有の美しくカラフルな壁面の建物にシールズが事務所を構えているのが映し出されて、やはり「侵略」の二文字を思わないではいられませんでした。

さらに、最も重要なのは、カイルの対戦相手といえるムスタファの、妻と赤ん坊が画面に登場したことです。ムスタファも妻も、一言も発することはありませんでしたが、この戦争への思いはカイル一家とまるで同じであろうことが想像できました。妻の不安げな視線と、夫の決意の固い表情は、どちらの家族にも共通していました。最後の狙撃で、カイルとムスタファは2キロ近く離れた距離にいながら水平上にいて、まるで鏡写しのようでした。自分が正義の名のもとに殺そうとしている相手もまた、同じ大義名分のもと、自分を殺そうとしている。自分たちを守ろうと、「番犬」たろうとしている。そのことが、わずか10秒にも満たない、敵側の妻と赤ん坊を映し出す場面で雄弁に描かれていました。

しかしながら、やはり戦闘シーンではどうしてもアメリカ側に感情移入してしまう作りになっているし、過激派の集会所となっていた店の向かいに住む一家の主をシールズが利用した上射殺したことによりアラブ人の暴動が起きたあたりも、アラブ人側の視点に立つことはありませんでした。ただの不気味で暴力的な集団のように映ってしまっていました。このあたりが、同じ暴徒化したアラブ人が登場する、パレスチナ目線の映画『ベツレヘム 哀しみの凶弾』なんかとは随分違いました。立場が逆なので当たり前ではあるのですが、もう少しだけ踏みこんで欲しかったです。

 

と、このほかにも実に色々なことを考えさせたれた映画で、実際様々な論争が巻き起こっている問題作なのですが、私は傑作だと思いました。ただ、この映画を「イスラム教って怖いよねー、中東って怖い!」と思っているようなレベルの無知な(偉そうな言い方ですが、自分が無知であることすら知らない人についてはそう言いたい)日本人が観た場合に、どういう感想を持つのか、わかりません。

(2015.2.25追記)
・ところでこの映画をイラクの人々がどう観たのか気になったので調べてみたら、ワシントン・ポストの記事グローバル・ポストの記事がありました。どちらもアメリカのメディアではありますが、これらによると、イラクでは封切られてから満席が続いたとのこと。ただしそれは絶賛されたという意味ではなく、むしろ逆で、多くの人が拒否反応を示して、罵声を浴びせながら観ていたそうです(特に子どもと女性を撃つ場面や、イラクの人々を何度も“野蛮人”と呼ぶことについて)。そして、封切からわずか1週間で、バグダッド市内のほとんどの映画館で上映が打ち切られたそうです。でも多くの市民がインターネットでダウンロードして観ているのだとか。グローバル・ポストのほうの記事の最後のほうに、「アメリカの映画でイラクの人が描かれるときは、必ずアメリカ視点で描かれる。だからイラクの映画人がもっとイラクの人々をとらえた映画を作らなければならない」という言葉があって、これは確かにそうで、イラクの人が描いたイラクの映画を私ももっと観たいと思いました。イラクの映画市場はまだ小さいけれども、徐々に盛り上がってきている、とのことです。是非たくさん作ってほしいし、日本でも上映してほしいです。少なくとも、イラクの(または他のイスラム教国の)映画を観たことのある人は、「イスラム教って怖い!」というような間違った認識は持たないのではないかと思います。(記事については訳の間違いなどあるかもしれません、その場合はご指摘いただけますとありがたいです。)

・関連書籍として『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・フィンケル著/古屋美登里訳 亜紀書房 2015)買ってみました。鉄は熱いうちに打て、なので、早く読み始めたいと思います。でも積ん読がたまりすぎています。

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『アメリカン・スナイパー』:イーストウッドは主人公を英雄として描いたか」への8件のフィードバック

  1. ツイッターでお世話になっているこっちです。
    私は試写会で観ましたが、恥ずかしながらムスタファの家族のシーンを全く覚えていません。なので、「まるで鏡写しのよう」という言葉にハっとさせられて、主役とその奥さんにしか焦点を合わせていなかった自分の浅はかさに気が付きました。
    新たな見解を与えてくださってありがとうございます。
    映画の見方の鋭さもさることながら、「尿意」の箇所の面白さも最高です!下半身がこそばゆい気持ちになりました。心から、お疲れ様でした!
    くつしたさんが今のくつしたさんになるまでの経緯というか、幼少期や学生時代に映画や音楽や本とどういった関わり合い方をしてきたのかとても知りたくなりました。
    いつかそういう記事も書いてくれたら嬉しいです。
    また、幽霊さんとのやりとりもとても面白く読ませてもらっています。お二人で対談形式のブログやって欲しいくらい!
    これからも楽しみにしていますね。

    • こっち様
      いつも読んでくださって、そしてコメントもくださってありがとうございます!試写でご覧になったとは羨ましい限りです・・・!私も時々応募するのですが、一向に当たりません。
      一度目の鑑賞は本当に辛くて、スクリーンに向かって「私だって辛いよ!」と叫びたい衝動にかられましたが、二度目は事前の水分摂取を控え、ゆったりと鑑賞に臨むことができたので良かったです。
      私の生い立ちなど恥ずかしいことばかりで語ることなど何もないのですが、一つだけ、こっち様は札幌にお住まいですよね?私も札幌で生まれて、函館→北見と移り住みました。10歳まで北海道にいました!楽観的な性格は道産子の特徴が出ているのかも知れません(^^)そして幽霊さん、本当に面白い文章を書かれるのでファンになったのですが、いつも丁寧に相手をしてくださるので感謝しきりです。あ、私も『赤×ピンク』観てみます!

  2. わー!札幌にいたこともあるんですね!
    今まで北見は一度も行ったことが無く、函館は3回くらい行きました。
    年に数回、あーラッキーピエロのチャイニーズチキンバーガー食べたーい!ってなります。
    私はずっと札幌ですが、くつしたさんはお引越しを何度か経験してるのですね。
    転校はお友達との別れもあったりで大変そうな印象を持っています。

    いやーほんと幽霊さん、面白いですよねー「おんなのこきらい」こちらでまだ公開してないんですが、我慢できずに読んじゃいました。金柑のくだりでかなり笑いました。
    今はくつしたさんと幽霊さんのブログを遡って読むのが楽しみな毎日です!
    赤×ピンク、普通の会話でこんな言い方せんだろ!ってツッコミはありますが、アクションはかっこいいと思います。

    • こっち様
      北見はわざわざ行くような目的のある街ではないですしね(笑)、ただ札幌と函館は本当に幼い頃だったのであまり記憶がなく、最も記憶に残っていて思い出も多いのが北見です。あの凍てつくような寒さや一面のビート畑などは忘れられません。ずっと札幌にお住まいとは、都会育ちでいらっしゃいますね!北見に札幌からの転入性が来たら一目置かれてました(笑)。
      幽霊さんとはお会いしたことはないのですが、既に何度も飲んだことがあるような気に勝手になってしまっています(笑)、本当に面白いですよね。ネタバレしていなことも多いので、私も映画を観る前に幽霊さんの記事を読んでしまうことが多々あります。お互いこれからも幽霊さんの更新を楽しみにしましょう!

  3. 通りすがりのスナフキンです。

    本日、この作品を拝見してきたので一言。
    くつしたさんの尿意との戦いは、この作品のエンドロールは最後まで見ないと感じられないものがあるので、正当性は認められると思います。

    閑話休題

    私は、主人公カイルの父が「人間には羊、狼、番犬の三種類がいる。黙ってやられる羊にも、ただ攻撃する狼にもなるな。番犬になれ」と息子たちに言った言葉が映画全体を貫いている主題と感じました。
    主人公カイルは番犬に成るべく従軍しました。一回目の帰還では番犬でいられました。番犬は羊の柵の中に戻れるのです。しかし、戦場で仲間が敵のスナイパーであるムスタファに狙撃されてから変わります。復讐を誓う所から狼に変わったのだと感じました。狼は全てに過剰に反応して、攻撃的であるが故に、狼が羊の柵の中に戻るには、狼にも羊にも相当な努力が必要なのだと思います。
    ところが、カイルも羊に戻る瞬間があります。奥さんのタヤも感じた不吉を彼は感知できなかったのか。

    さて、この映画の根底にある恐ろしさについて言及してみたいと思います。
    イーストウッドは「あなたは、従軍した時に、羊、番犬、狼のどの態度でいますか?」と問うているのかと感じました。イラク側の人々は終わりの見えない戦いの真っ最中で、ムスタファなど敵対する戦士達は子供に至るまで狼になるしかありません。アメリカ側は運が良ければ五体満足で終れる戦争です、「一抜けた」が可能です。しかし、アメリカ側であっても番犬を超えて狼になってしまう事を、また狼は途中で狼をやめても狼に狙われる事を描いていると思います。
    目的の為に自己犠牲を強いても達成まで努力する人、決して諦めず目標を追う気持ちが続く人、チャレンジ精神旺盛な人、正義を信じ最後まで信念を曲げない人、そんな真面目で良い人を狼に変えてしまうのが従軍なのだと言っていたのだと感じました。

    仲間が、日本人に協力してくれた敵対勢力が蹂躙された時、私たちはどんな対応ができるのでしょう。我々を代表して敵対勢力に対応する本人や家族に、カイルや彼の奥さんと同じ思いをさせずにいられる方法は無いのかなと考えてしまいました。

    すみません、だらだらと長文になってしまって。

    • スナフキン様
      はじめまして、コメントありがとうございます!色々私の思いつかなかった解釈を示してくださって、勉強になりました。
      特に、「仲間を殺されてからカイルは狼になった」という解釈は、私には全く思いつかなかったので、成程そういう捉え方もあるのだと感じました。しかし、たとえ仲間を殺されても、狼にはなってはいけないのですよね。9.11以降のアメリカは、自分たちが攻撃されたことから狼になり果ててしまっているのだと思います。イーストウッドはそのことも伝えているのかもしれないですね。いただいたコメントでまた色々考えてしまいました。ありがとうございました!

  4. くつしたさん、こんにちは。

     報告とお礼がすっかり遅くなりましたが、先の拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借しております。さすが苦悶と苦痛を体感しながら観賞なさった作品だけあって(笑)、何度読んでも面白く、また、ためになるというか触発力に富んでいて、素晴らしい鑑賞文だと思います。

     すごくきめ細やかにご覧になっていて、そのうえで丁寧な反芻によって深めた鑑賞をユーモアと分かりやすさの行き届いた筆致で根拠を示しつつ綴っておいでで、ほとほと感心しました。どうもありがとうございました。

    • ヤマ様
      本当にいつもありがとうございます。苦悶した甲斐がありました…(笑)。近頃忙しさと体調不良で映画自体あまり観ることが出来ておらず、ブログを書くのもなかなか難しい状況になってしまっていたのですが、やっぱり頑張ろう!という気になり、とても励まされました。本当にありがとうございます。アメリカン・スナイパー、そろそろ3度目が観たくなってきました!

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