『フォックスキャッチャー』:母に愛されなかった男の狂気、そして・・・

foxcatcher
2015.2.14 シネリーブル池袋

『フォックスキャッチャー』/ベネット・ミラー/アメリカ/2014 ★★★☆

大富豪が金メダリストを殺したという実話をベースにした映画です。第67回カンヌ国際映画祭監督賞受賞。やっぱりカンヌでの受賞作だけあってか、セリフや説明は少なく、スポーツ映画なのに試合の場面ですら大した盛り上がりがない。「退屈だった」「寝た」「隣の人も寝ていた」などの感想も多いようですが、私は結構楽しみながら観ました。なんでかって、冒頭からこの大富豪のジョン・E・デュポンは絶対ゲイだ、と確信し、その答え合わせをしながら観たようなものだからです。多分、見方としては最低です。でも、映画の中でそれははっきりとは描かれないのですが、実際その噂もあったようだということを観終わってから知って、大変嬉しくなりました。以下、あらすじと、そのようなほとんど下衆な視線からの感想を書きます。(ちなみに私はゲイに対して何の感情も持っていないつもりですのであしからず・・・。最近お気に入りのグザヴィエ・ドランもゲイだし、超好みなベン・ウィショーもゲイだし、好きな俳優や監督やミュージシャンなどにもゲイの人が多いです。)

【あらすじ】
マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)はレスリングの元金メダリストだが、アメリカがレスリングというスポーツを重要視していないこともあり、貧しく暮らしている。彼には共に金メダルを獲った兄デイヴ(マーク・ラファロ)がおり、彼が今でもマークのコーチ役を担っている。マークは明るく社交的で温かい家庭を持つ兄とは対照的に、鬱屈としていて常に一人である。そんなある日、突然マークの元へ大富豪ジョン・E・デュポン(スティーヴ・カレル)の秘書から電話がかかってくる。なんと彼は破格の報酬で彼を自分の作るチームへ引き入れたいという。

【感想】
実話なのでネタバレと呼ぶのかわかりませんが、ネタバレしてます。
とにかくこれは狂気の映画であり、マザコンの映画であり、ゲイの映画でした。もう少し真面目な表現をするなら父性の映画でもありました。母に愛されたかったし、父になりたかったし、男と寝たかった男の話ではないかと思いました。

冒頭、デュポン母の愛する馬たちが走る様子が古い8ミリのような映像で流れるのですが、ベッド・ミドラーじゃなくてベネット・ミラーはこういうオープニングが好きなんでしょうか。『マネーボール』もそうでした。で、ここで馬たちを統制する(?)犬たちも一緒に走っているのですが、一匹だけパーッと全然みんなと違う方向に走っていく犬がいるんですよね。この古い映像でのオープニングはその犬をとらえて終わります。単純すぎる見方かもしれませんが、この犬は一族の中でちょっとおかしな奴になってしまったデュポンを象徴しているのかなぁ、などと思いました。
(2.18修正→)が、いつも文章がとても面白いこちらのブログによると、あれは犬じゃなくてキツネだそうです。デュポンの作ったレスリングチームの名前は映画のタイトルである「フォックスキャッチャー」ですが、この冒頭の映像はキツネ狩りの獲物をとらえたものとのこと。確かにそのほうがタイトルともリンクしているので間違いないと思います。最後にカメラが追った一匹が、富豪に殺される男の暗喩なのでしょう。

そして次がマークのトレーニング風景です。マークはトレーニング専用の人形を相手に一人でレスリングをしています。レスリングのトレーニングって、こんな人形を使うのですね。マークのコミュニケーション能力の低さを考えると、これはストイックなトレーニングでありながら、同時に一人相撲です。人形を使っての一人相撲…(下ネタを言いそうになりましたがやめときます)。
その後、兄デイヴが取り組みの相手をしてくれますが、最初私はこれが兄だとわからなかったので、「ゲイの恋人なのかな?」と思いました。それくらい、このレスリングという競技がセクシャルなものに見えたわけです。オリンピックなんかでレスリングの試合をしているのをテレビで観たりしたこともありますが、その時はそんなことは考えませんでした。なので、これはベネット・ミラー監督があえてそういう風に見えるように撮ってるんじゃないかと思いました。いや、ほんとに取っ組み合う場面で顔だけ映ったりしたときは、「え、ドサクサに紛れてやられちゃったのかな?」と思ったくらいです(後述)。

ここでちょっといきなり映画全体について書きます。

この映画は、登場人物の誰の視点にも立っていません。なので、怖すぎるデュポンはもちろんですが、一応主人公であるはずのマークですら、何を考えているのかよくわかりません。それが「退屈だった」という感想を持つ人が多く出てしまう理由ではないかと思います。でも逆に、だからこそ面白いともいえます。だって、「大富豪はなぜ金メダリストを殺したのか?」というキャッチコピーでしか事前情報を入れていない場合には、その理由をあれこれ想像するわけですよね。そんな中で、私は極めて情緒不安定なマークがついにブチ切れて殺傷沙汰に?とか、デイヴは人格者だけど、だからこそ何か行動に出て、それがきっかけで波乱が起きることが原因でなのでは?とか、色々考えました。しかも、あまりまともに予告編も観ていなかった私は、富豪が死ぬんだと勘違いしていました。それが勘違いであることに、殺害の場面になるまで気付きませんでした。この映画はそれくらい誰がいつ突飛な行動を取ってもおかしくないような緊迫感が漂っていたし、主要な登場人物3人(全員圧巻の演技!)が何を考えているのかわかりませんでした。そういう意味で、私はこの映画をサスペンスとしても楽しむことができました(勘違いしていて良かった)。そしてそのサスペンスの中心に、セクシャルな問題がある、と私は思いました。真面目に言えばです。

話はデュポンのゲイ疑惑に戻ります。デュポン家は化学薬品で富を築いた大財閥で、戦時にはデュポン家から大量の化学兵器が供出されたようです。戦車も作っていて、ジョン・デュポンは極めて軍国主義に近い思想の持ち主であるようにも見えます。愛国とか、アメリカのために良き国民になれとか、ちょっとそっち寄りな発言も多いです。そういう思想がそもそもマッチョで、ゲイ的なものとの親和性が高いし、デュポンにおけるその極め付けがレスリングという競技なのだと思います。

デュポンは、元金メダリストであるマークが名前を聞いたこともなかったような、自称“コーチ”で、指導の実績なんかも全然なくて、あるのは金だけです。大富豪の彼がなぜレスリングを愛しているかって、ゲイだからに決まってます。母は息子にそういう気があることを見抜いていたのではないでしょうか。だからレスリングを毛嫌いしたし、練習場に現れたときにも、ここぞとばかりにかっこつけまくったデュポンが、選手と重なり合って倒れて技を繰り出し始めたときに眉をひそめて退場します。デュポンという男の中で、性の問題と母の愛情の問題が絡み合っているように見えました。

そうした要素に大金持ちであるという環境が加わった結果、彼は物凄い権威主義者となりました。レスリングに関しても勿論同じで、自分の作ったチームの選手たちにとって自分が「指導者」であり「人生の師」であり「父」であることを熱望します。デュポンには子供がおらず、本物の父にはなれませんでした。しかし誰よりも「父」的なものに憧れていて、且つ「父」を勘違いしている男でした。デュポンの父が映画には全然登場しないのでわからないのですが、たとえばデイヴのような父に育てられたのではないことは明らかです。私は、この映画は、この事件の真相(殺害動機)には、デイヴが自分のことを「人生の師」と言わなかったことだけでなく、理想の父に成り得ている男への嫉妬もあったという一つの解釈を提示しているのではないかと思いました。

まあでも、確かにこれというきっかけが劇的に描かれるでもないので、いきなりマークとデュポンが不仲になったようにも見えたし、説明のなさに物足りなさを感じる人も多いのはわかります。私もしばらくの間、何か決定的な事件が起きたのだと思って観ていました。そしてそれが「真夜中の絵画室、二人だけのレッスン」事件なのではないかと途中まで本気で思っていました。つまり、前述の通り、取っ組み合いのときにマークとデュポンの顔だけが映って、二人とも息が荒くて・・・という場面です。正直ヤってるのかと思いました。師弟関係がそういう関係に変化するのって、かなりありがちだし。

まあこのように、見方としては色々間違えたりもしましたが、そこそこ楽しめました。始めから不穏な空気が漂いまくっていて、こういう緊迫感は好みでした。マークの輝かしいはずの出発の日からして曇天だし、デュポン家に到着した時のマークは歪んだガラス越しにとらえられ、もう「歪んだ世界に足を踏み入れてしまいました」感が満載でした。でも、何よりも不穏なのはデュポンの顔そのものですが。まさか40歳の童貞男がこんなシリアスな・・・。いや、デュポンも童貞の確率高いですが。そのあたりの(?)細かいところも楽しめる映画でした。

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