『おみおくりの作法』:どんな人でも、必ず生きた足跡を残している

Still-Life

2015.2.1 シネスイッチ銀座

『おみおくりの作法』/ウンベルト・パゾリーニ/イギリス、イタリア/2013 ★★★★☆

シネスイッチ銀座は相変わらずチョイスが上手いらしく、都内でここでしかやっていないこの作品は連日満員になっているようです。私は前日にゴダールを観に行ったときについでに券を買っておいたのでそこそこ良い席に座れましたが、映画の日であったこの日は立ち見が出ていました。シネスイッチはいつもお上品な有閑マダムで溢れているイメージですが、今回はゴダールも同時にやっていたからかちょっと小汚い人もいました。でも小汚い人はだいたいゴダールの客で、この『おみおくりの作法』には、やはり上品な大人たちが集っている印象でした。
で、小汚い私は上品な大人に混ざって観てきたわけですが、良かったのかというと、実に良かったです。語りすぎず、煽らず、さらっとしていながら深く心に沁み入る脚本が絶品でした。映像も綺麗で、品も良く、センスも良い。銀ブラ・マダムも安心して観られる映画です。いや、ほんとに良い映画でした。じーんと心に沁みました。感想は完全なネタバレではありませんが、だいたい想像できてしまう程度にはバレてると思います。

【あらすじ】

ロンドン・ケニントン地区の民生係のジョン・メイ(エディ・マーサン)は、身寄りがなく一人で亡くなった人を弔う仕事をしている。故人のことを丁寧に調べ、故人にとって最良の弔いがどんなものかをきちんと考えて、自分以外参列者のない葬儀に何件も出席している。そんなある日、彼は自分の住むマンションの真向かいの住人ビリー・ストークが一人で亡くなったことを知る。また同じ日に、彼は仕事に時間をかけすぎるとの理由から公務員を解雇されてしまう。ビリーとは特段の交流がなかったジョンは、最後の仕事となったビリーの弔いに、いつもよりさらに熱心に取り組む。

【感想】※7割方ネタバレあり

いろんな対比にいろんな思いが込められた映画でした。

ジョンの住む家や仕事場はきちんと片付いており、規則正しく生活する几帳面な性格であることがわかります。仕事に対しても勿論丁寧に真面目に取り組んでいますが、自分が弔った人の写真を大切にアルバムに貼って保管することを日課としていることから、「葬ったら終わり」ではなく、人としても誠実であることがわかります。しかし食事は缶づめとパン、それにリンゴという質素さで、家庭の色はありません。リンゴの皮を綺麗に剥くことからも、一人暮らし歴の長さがうかがえます(結婚相手にはラクだネ!)。林檎の皮剥きに一人暮らしを象徴させるのって小津っぽいな(『晩春』)、と思ったりもしました。映像はグレーがかったノスタルジックな色調で、イギリスらしく基本的に曇天です。また、ジョンはシンメトリーな画で整然ととらえられることが多く、几帳面さ・または単調さが強調されていました。

一方、最後の仕事相手となったビリーは、死因はアルコール中毒で、部屋は雑然とし、いつ亡くなったのかもわかりません。まさにカオスです。そして、その人生も非凡なものであったことがジョンの懸命な調査によりわかってくるのですが、このビリーの家はジョンと同じマンションの、ジョンの部屋の真向かいにありました。つまり、ここでもジョンと対照的な存在であることが示されていました。ジョンは、自分とは真逆のタイプの人物の生きた軌跡を追うことで、自分自身の人生にもいつのまにか彩りが広がっていく体験をすることになります。そして、あの奇跡のようなラストシーンでは、前半がグレーがかった色調だったのに対し、鮮やかな緑色が広がっていました。

この映画は、「どんな人でも、必ず生きた足跡を残している」ということを温かく伝えていると思います。トリッキーな性格で破天荒な人生を送ったビリーは言わずもがな、一見単調な、誰もやりたがらないような仕事をする下級公務員のジョンも、たくさんの人に足跡を残していました。それがわかるラストには本当に感動しました。何のあざとさも感じさせずにこれほど涙を誘うラストはなかなか無いと思います。

ところで、このラストでのケリーはやっぱり、ジョンに何が起きたのかをまだ知らないんじゃないかと思いました。この映画は、実はジョンと同時にケリーの物語でもあって、ケリーもまたジョンと出会ったことで色々な人と出会い、人生に新しい道が開けてきたのではないかと思います。ケリーの家に飾られていたケリーと犬のツーショット写真は、最初のほうでジョンが弔った老婆の家にあった、老婆と猫のツーショット写真と全く同じ構図でした。老婆にとって猫だけが心の支えだったことを思い起こすと、実はケリーも孤独に過ごしていることがわかりました。それが、ジョンと出会って少しずつ変わっていったように見えました。ジョンとビリーが対照的なら、ジョンとケリーは似た者同士でした。だからあのラストは、ケリーのこれからが色彩豊かなものであることを示しているのだと、ジョンのぶんまで願いたいです。

なんかかなり美しい気持ちで感想を書いてしまいました。正直こういう有閑マダムに受けているお品の良さそうな映画って、実際に観てみると「たいしたことねーじゃねーか!」と思うことも多く(たとえば『チョコレート・ドーナツ』とか『チョコレート・ドーナツ』とか『チョコレート・ドーナツ』とか)、、疑ってかかってしまう癖があるのですが、これは良かったです。まぁ個人的に、こういう誠実な、童貞感漂うウブそうな中年男性が、その不器用さゆえに周りから軽んじられるのは見ていられないし、逆に言えばそういう主人公に完全に感情移入してしまうほうなので、余計に心に沁みたというのはあると思います(勿論それだけエディ・マーサンが素晴らしかったということでもありますが)。また、「そこにあったもの(いた人)が(い)なくなった場所」を、静物画風モンタージュで映し出す」という、小津とか『ビフォア・サンライズ』などの、私の大好きな映画で効果的に使われていた手法にも個人的に弱く、色々とツボを突かれたというのもありました(でも、そういえばこの映画の原題は“Still Life”(静物画)でした)。なので、何か自分に全く新しい視座を与えてくれたとか、知的好奇心を刺激されたとか、そういうのは特に無いのですが、単純に「ああ、いい映画観たなぁ」という感想を持つことができる映画でした。

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『おみおくりの作法』:どんな人でも、必ず生きた足跡を残している」への3件のフィードバック

  1. くつしたさん、こんにちは。

    前回の拙サイト更新日に「映画大学 in 今治」に行っていて
    更新がバタついたせいか、
    報告とお礼に参上しないままになっていました(詫)。
    今さらながらですが、
    先の更新でこちらの頁をいつもの直リンクに拝借しております。

    >正直こういう有閑マダムに受けているお品の良さそうな映画って、実際に観てみると「たいしたことねーじゃねーか!」と思うことも多く(たとえば『チョコレート・ドーナツ』とか『チョコレート・ドーナツ』とか『チョコレート・ドーナツ』とか)、、
    にすっかり笑わせていただきましたが、
    「なんかかなり美しい気持ちで」お書きになった感想も
    たいへん素敵でございました(笑)。

    「どんな人でも、必ず生きた足跡を残している」との思いは、他者に対しては抱きやすく、自身に対しては懐疑的になりがちですよね。そういうとこに対して、気付きや促しの得られる作品だったように思います。

    どうもありがとうございました。

    • ヤマ様
      お返事が遅くなって申し訳ありません。いつもリンクとコメント、そして過分なお言葉をありがとうございます!
      >他者に対しては抱きやすく、自身に対しては懐疑的になりがち
      まさにそうですね。だからむやみに他人を羨んだりしてしまいます。そこに気付かせてくれた意味でも、素敵な映画だったと思います。とはいえ、「でも私はあんなに真摯に生きていないからやっぱり違うかも・・・」と、また堂々巡りが始まってしまいそうでもあります(苦笑)。
      映画大学in 今治、素敵なイベントですね!フットワーク軽く参加されるヤマ様も素敵です!!

  2. 「映画大学in 今治」のレポ、ご覧くださったんですね。ありがとう。
    山田洋次監督の『小さいおうち』の拙稿(http://www7b.biglobe.ne.jp/~magarinin/2014j/06.htm)を評価していただき、招待してもらえました。とても愉しかったですよ。

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