『トム・アット・ザ・ファーム』:ポップンオシャレを封印しても、ドランは撮れる!

tom_at_the_farm

2014.10.26 新宿シネマカリテ

『トム・アット・ザ・ファーム』/グザヴィエ・ドラン/カナダ=フランス/2013  ★★★★

去年の東京国際映画祭で観て以来、一年振りに二度目の鑑賞でした。初めて観た時とはやっぱり若干感想が変わってくるもので、一度目は、これまでのポップな雰囲気からガラッと変わってシリアスなサスペンスだと思ったのですが、二度目はそれにシュールなコミカルさが加わって見えました。特に母親爆笑の場面と、フランシスのタンクトップ。でもやっぱり良くて、グザヴィエ・ドラン監督作の中で一番良いと思いました。以下、ネタバレありのあらすじと感想です。

【あらすじ】

25歳のトム(グザヴィエ・ドラン)は、交通事故で亡くなったゲイの恋人ギヨームの葬儀に出席するため、ケベック州の田舎の村へ車でやってきた。しかしギヨームは家族に自分がゲイであることや恋人であるトムのことなどを話しておらず、逆にサラという女性の恋人がいると嘘をついていた。ギヨームの母アガット(リズ・ロワ)が、「恋人のはずなのにサラが来ない」と憤っている様子を見てトムはそのことを知る。ギヨームにはフランシス(ピエール=イヴ・カルディナル)という兄がいて、兄はギヨームがゲイであることを知っていたが、「母には絶対に知らせるな、サラという恋人がいる嘘をお前も付き通せ」と、暴力によって脅迫する。はじめはそんなフランシスに腹を立て、村を去ろうとするトムだが、フランシスの仕事である農業を手伝うなどするうちに、次第に逃げる気を失い、彼らに取り込まれていく。

【感想】※ネタバレあり

グザヴィエ・ドランがこれまで監督した映画は、面白いし語り方もうまいし、弾けるようなエネルギーが漲っていてどれも好きなのですが、いかんせん登場人物たちがやたらとこれ見よがしにポップンオシャレなのと、インディーロックのMVみたいな映像(空からカラフルな服が大量に降ってきたり、室内に雨が降ったり、それらがスローモーションだったり)がところどころに挿入されるのが玉に瑕でした(あくまでも個人的には、です)。しかし本作では、それらのゴチャゴチャした演出が抑制されて、飾り無しでストレートに勝負しているところが良いし、グザヴィエ・ドランがそれでも勝負できる監督であることを証明していると思います。

ドランはこの映画において、予告編からもわかるように、初めてサスペンスというジャンル映画に挑戦しています。加えて、元が戯曲であり、その原作者であるミシェル・マルク・ブシャールと共同脚本したということも大きく影響しているとは思いますが、ひとつの嘘をめぐって、それがいつ破綻するかと観る側をハラハラさせる危うい会話劇(しかもこれが最高にシュール!)を展開するという新境地も開拓しています。

サスペンス映画としては、ガブリエル・ヤレドの音楽による盛り上げの効果が絶大です。不穏な音楽と、視界の悪いロケーション、逃げる主人公、「来る、来る、来る・・・来たっ!!」という心臓に悪いあの演出、サスペンスには不可欠ですが、ドランも本作でこれをやっています。シャワーの場面なんかヒッチコックの『サイコ』そのまんまです。それから、なぜか村の人たちがギヨームの家族(ロンシャン家)を避けているという状況が冒頭の葬儀の場面から描かれていて、その理由はなかなか明かされず、ストーリー上の仕掛けとしてもサスペンスの王道で、これもうまくいっていると思います。曇天の鄙びた田舎の景色も、不気味さと閉塞的な雰囲気を醸し出しています。

そして繰り広げられる狂言ですが、これは前回観たときよりもかなりシュールに感じて、「もしかして笑って良いのかも!?」と思ったりもしましたが周りの誰も笑っていないし、パンフレットを見るとドラン自身が「コミカルにするつもりはなかった」と言っているようなので、どうやら笑ってはいけないようですが、笑ったほうが面白いと思います。原作の戯曲ではコミカルな雰囲気らしいので、それが引き継がれたのだと思います。

シュール・スイッチは、トムがいきなり下ネタを発しはじめたところから入ります。一瞬シーン・・・と場が凍るも、フランシスの添えた一言が良かったのか、一呼吸おいて母アガットまさかの大ウケ。「あれは良かった、母が笑ったのは久しぶりだ。」と、フランシスはトムの下ネタを褒めたりします。フランシス、お前一体なんなんだよ。そもそも登場の仕方からして暴力的なフランシスですが、精神は病みまくっていて(「母は自分より弟を愛していた」病)、コミュニケーションの仕方がよくわからないタイプの人です。それで、暴力と、持ち前の官能性とでしか人と繋がることができないのだと思いますが、フランシス的キメの場面(トムとの初対面時、サラとの初対面時、トムとのタンゴ舞踊時など)ではなぜか必ずタンクトップ姿で、鍛えられた肉体をドヤ顔で披露します。妖しすぎるタンゴの場面は、最初観たときは「ああ、トム、そんな顔して・・・どんどん取り込まれていってるじゃない!」とハラハラしたのですが、今回はギャグみたいに見えました。ギャグみたいに見えたところで映画の運びには影響しなくて、むしろ「え、どっち!?」という危うさが、トムとフランシスの関係の危うさとリンクして、この映画自体のギリギリのバランスの魅力を示しているようです(そうか?)。いやでも本当に、笑えたところで「あんなのギャグじゃん」にならないところが凄いです。

そして待望のサラ登場。すでに農業を手伝ったりしてストックホルム症候群なのかフランシスへの欲情の芽生えなのかわかりませんが(というか、二人が寝ている部屋のレイアウトが最初と最後で違っていて、最初はそれぞれのベッドサイドテーブルを挟んでいたのに、途中からベッドがぴったりくっついていました。ということは、二人はどこかの段階で既に関係していたのだと思います)、とにかく彼らに取り込まれているトムに対し、サラはいたってまともです。服装からしてもあんまり知的な感じじゃないところがまた面倒くさくなくて良いです。まっすぐな、当たり前な反応を示します。なので嘘をつくのも下手で、そもそもギヨームにそれほどの思い入れがないため、トムのように「それでもやるしかない」という理由もありません。この狂言を続けるのに最重要人物であるサラは、本人が登場した瞬間ほとんど爆弾と化してしまいます。でも、この映画に出てくる主要人物の中で、唯一まともなのがサラです。チャンスを作り、逃げよう、とトムの手を引くサラですが、このときのトムは「牛がね・・・」などと農業の話を楽しそうにしゃべり、目がイッてます。サラはどん引きです。「か、帰りた~い」というサラの心の声が聞こえてくるようです。ちなみに「美しき神童」の呼び声高いドランですが、この時は結構不細工です。不細工な自分もしっかり撮って、偉い!

でも結局尻軽なサラはフランシスの手篭めにされ、その間散歩してくるよう命じられたトムがふらっと入ったバーで、ロンシャン家がなぜこの村の人たちから避けられているのか、その理由を知ることになります。(ちなみにこのときのバーの店主を演じたのはドランの父親だそうで、そういわれれば少し似てるかな?でもそっくりというわけではなく、お母さん似なのかもしれません。)その理由とは、ギヨームがゲイであることをからかった若者に対しフランシスが激怒して、暴力をふるって口を裂いたというものでした。フランシスがそのことに対してそれほど激怒したというのは、恐らく自分もバイだし、ギョームとも関係していたのだと思います。そして、母アガットは、自分でも認めたくなくて抑圧しているけれども、本当はそのことに気づいていたのではないでしょうか。だからあれほどまでに「恋人サラが来ない」ことに対して憤っていたのだと思います。

で、ラストです。フランシスの超絶ダサい「USA」というバックプリントの入ったジャケットが忘れられませんが、流れるエンディングテーマはルーファス・ウェインライトの“Going to A Town”で、「アメリカにはうんざりだ」という歌詞の曲です。別にフランシスにアメリカを象徴させたわけではないと思いますが、独善的なところなどは重なっているのでしょうか。ラストショットでトムは車に乗ったまま正面を見ているので、本当にトムが逃げ切ったのかはわからないのですが(また村に戻る可能性もあると思います)、この曲を流して、フランシスにあのジャケットを着せたということは、やっぱりトムは目が醒めて「うんざりだ!」ということで、逃げることができたと捉えたいと思います。

ぐだぐだ書きましたが、とにかくこの映画は、サスペンスという新しいジャンルへの挑戦でありながら、同性愛と母の愛というこれまで描いてきたものは変わらず描いていて、且つ会話の妙という新たな技術を身につけた、グザヴィエ・ドランのこれまでの作品の中でもっとも成熟した映画だと思いました。『Mommy』の日本公開が待たれますが、なんとその次は政治スリラーの製作を準備中だそうで、非常に楽しみです。

(以前書いた『胸騒ぎの恋人』の感想はこちら

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中