『リスボンに誘われて』:日常から一歩踏み出してみる(リスボン旅行記含む)

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2014.9.14 Bunkamura ル・シネマ

『リスボンに誘われて』/ビレ・アウグスト/ドイツ・スイス・ポルトガル/2012 ★★★☆

これは完全に8月のポルトガル旅行を懐かしむ目的で観に行きましたが、結構良かった。リスボンが舞台の映画は意外と少ない中、これは観光名所(の一部)をしっかり押さえた観光映画にもなっているので嬉しかったです。実際に私が歩いた道なんかも結構出てきて興奮しました。この記事後半はリスボン旅行記になる予感。パスカル・メルシエの『リスボンの夜行列車』が原作の映画ですが、原作は読んでいないので映画だけ観ての感想です。ちょっとネタバレあります。

主人公ライムント(ジェレミー・アイアンズ)はスイスのベルンで古典を教える教師で、妻とは別れ、平凡で孤独な毎日を送っています。そんなある雨の日、橋の上で自殺しようとしている女性をたまたま見つけ、ダッシュで止めて思いとどまらせます。学校に出勤途中だったライムントは女性をそのまま授業に連れていきますが、女性は授業中どこかへ出ていき、ライムントは追いかけましたが見失ってしまいます。女性が教室に置いたままにしたコートのポケットに一冊の本が入っているのを見つけたライムントは、パラパラとページをめくり、そこに書かれていることに深く感銘を受けます。さらに本には15分後に出発するリスボン行き夜行列車のチケットが挟まっており、ライムントは衝動的にその列車に乗り込みます。ライムントは本の著者アマデウ・デ・プラド(ジャック・ヒューストン)を訪ね、彼の波乱に満ちた人生を知っていくことになります。映画は、ライムントがリスボンの街を歩きながらその真相に近付いていく現代の様子と、ライムントが出会った人から聞く過去の様子が交互に描かれる構造で、アマデウの身に何が起きたのか、そして橋の上にいた女性は一体誰なのかが徐々にわかっていくミステリーにもなっています。

まず思ったのは、「50~60歳代になってから観たら全く違う感じ方をしたかもしれない」ということでした。劇中に登場するアマデウの本には、<若い時は皆、不死であるかのように生きる/死の自覚は紙のリボンのように我々の周りを付かず離れず踊るだけだ/それが変わるのは人生のどの時点でだろう?/そのリボンが我々の首を締め始めるのはいつだろう?>という一節があります。ライムントは、平凡な人生を送ってきて、もう残りの人生も10年ぐらい、このまま退屈な人生を終えるのだなぁ、ということを恐らく常に感じていて、だからこそこの一節に深く感じるものがあったのだと思います。しかし私は今年30代に突入したばかりで、「青春」という文脈で見ればもう若くはないとしても、「人生」という文脈で見れば恐らくまだまだ若い年齢なので、死の自覚はまさに「紙のリボンのように我々の周りを付かず離れず踊るだけ」の状態です。なので、映画のはじめのほうで引用されるこの一節には、正直まだピンときませんでした。

しかしライムントはリスボンに到着するやいなや著者アマデウの家を訪ね、彼の妹に会い、帰る途中に転んで眼鏡を壊して眼科へ行き、そこで働くマリアナ(マルティナ・ゲデック)と出会い、彼女の伯父が若い頃にアマデウと知り合いだったとわかって会いに行き・・・と、物凄く能動的に、どんどん新しい人に出会って、足で情報を集めて、約40年前アマデウの身に一体何があったのか、真相に近付いていきます。これは高校で古典を教え、家に帰れば一人二役でチェスをしていた毎日からするとかなりの非日常です。冒険と言っても良いくらいです。この「日常を抜け出して冒険に出る」感へのあこがれということでいえば、30歳の私もガッツリ持っています。むしろ学生時代は持っていませんでした。こういう憧れはわりとここ数年持つようになったものです。恐らく就職して数年経って、仕事にも慣れてきて、職場には特別不満もないけれども刺激もなく、このまま無難な人生を歩んでいくのかなぁ・・・などと感じはじめたからかもしれません。ライムントは自分のことを退屈な男だと感じており、激動の時代を生きたアマデウや彼の仲間たちと自分を比べてますますその思いを強くしますが、それは後ろ向きな感情というよりは憧れのようなもので、彼らのことを調べて彼らに近付いていくその過程が、まさにライムントにとっては「退屈な男」からの脱却となっていて、ライムントはそのことに気付いてかどうかわかりませんが、どんどん生き生きしていきました。

1970年代にアマデウの身に起きたことは、当時のポルトガルの政治情勢と深く関わっているため、「激動の人生」というのは時代が作るものでもあるとは思いますが、でも、何も「激動の人生」でなくても、ちょっと一歩踏み出すだけで、人生は大きくその彩りを変えるものなのかもしれません。この映画はそれを語っていたと思います。ただし、映画はそれに「死の自覚」という大切な要素を加わえて語っているので、そこまでをはっきりと感じ取るためには、あと30年ぐらい必要かもしれないな・・・と思いました。(話それますが、今日、山口淑子さんの訃報がありました。この方こそ生まれた時代と生まれ持った美貌と、色々な要素が重なり合ってまさに激動の人生を送った人だろうと思います。)

なんだかストーリーのことしか触れていませんが、映画として良かった点は他にも色々あったので挙げておきます。
まず俳優陣、ジェレミー・アイアンズ!渋い、しかしかっこよすぎる。つい最近スコリモフスキの『ムーンライティング』(1981年)で観ましたが、そこでの30年前の姿と比べても髪がシルバーになったぐらいで、むしろそれによって渋みを増してますます男前に。役にもぴったり。あとアマデウの妹役のシャーロット・ランプリングやアマデウの仲間だったジョルジュの現在を演じたブルーノ・ガンツなど、ベテラン陣はさすがの迫力でした。あとファム・ファタルである若きエステファニア役のメラニー・ロランは目も覚めるような美しさ。
それからリスボンの町並みも、ライムントがリスボンに到着してすぐ(なので映画としてもはじめのほう)に、ザ・リスボン!な風景をパッパッと挿入して、ライムントも観客も「異国に来た」感を得られるようになっています。それも、塀の落書きなどは消されていなくて(実際リスボンはラクガキが凄い)、観光客目線でありながらも作り込みすぎていない感じが良かったです。
しかし気になった点も少しだけ。肝心の若きアマデウの魅力がいまいち伝わってきませんでした。ジャック・ヒューストンは良かったのですが、どうにも「貴族なのに労働者階級とも分けへだてなく仲良くできる奴」「頭がめちゃくちゃ良い奴」「性格も良い奴」「嘘は絶対につかず信念を貫く真っ直ぐな奴」「そして男前」という、完璧すぎて入り込む隙のない、人間味が感じられない人物でした。実際にはエステファニアをめぐって親友ジョルジュを裏切ったりしているわけなので、もう少し人間らしさが描かれていたら良かったと思います。老年のジョルジュを演じたブルーノ・ガンツの渋みも相まって、個人的にはアマデウよりも断然ジョルジュに感情移入してしまいました。

——————————————–(ここまでで映画の感想ほとんど終わり)——————————————————

とはいえ、とにかくはじめのほうでリスボンの町並みが映し出された時点で私は大興奮したわけで、私が歩いた道をジェレミー・アイアンズが歩いたりしていたので検証してみたいと思います(いらない・・・)。

まずライムントの泊っていたホテルは、たぶんアルファマ地区だと思います。アルファマは迷路みたいな曲がりくねった路地で出来た地区で、18世紀より前の町並みがそのまま残っているのでめちゃくちゃフォトジェニックで趣あります。ホテル前の通りに見覚えはあったのですが、似たような道が多いのでちょっと場所は特定できませんでした。
しかし、老ジョルジュとライムントが対面する場面のロケ地は絶対にここだ、と思い、帰ってきて写真を見てみたらやっぱり同じで、私も通った道でした。これもアルファマです。この場面↓

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これ↓は私が撮った写真です。落書きがちょっと違いますが、99%間違いないと思います。ポルタス・ド・ソル広場の近くですね。

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映画には関係ありませんが、これもアルファマ。

アルファマの路地

アルファマの路地

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かすかに見えるのは海です

アルファマの路地

階段だらけ

アルファマ

暗くなってきたアルファマ。夜は治安が良くないと聞いていたけど、ハイシーズンだったからか遅くまで人が多くて賑わっていました。

あと、映画での画像は探せませんでしたが、ライムントはここも歩いてました。

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ここは特にガイドブックに載っていたわけでもなくて、レコード店を探していたらたまたま見つけたのですが、バイロ・アルトの大通りを一歩入ったこの坂道の、この写真の↓緑の扉がレコード店で、

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ちょっと階段を下るとこんな感じです。

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で、さらに下りてみるといきなりこんな↓

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景観が広がっていて、本当に感動しました。何分間ここに立っていたかわかりません(その間夫はレコードをひたすら掘っていた)。私がリスボンで一番気に行った場所です。細い急な坂道があって、下にはロシオ広場があり、その奥にまた急斜面に連なる家並みが見えているというのが本当に凄くて、写真じゃ全然伝わっていないのが残念です。8月だったので日差しが強くて、道がわりと細いので濃い陰が落ちてしまい、写真を撮ろうとしても道が真っ黒につぶれてしまうか遠くの家並みが白飛びしてしまうかで、私の技術では目で見たままの景観をカメラに収めることは不可能でした・・・。暗くなってくるとこんな感じです。↓

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踊り場(?)にレストランがあるというのがまた日本にはなかなか無い光景で良いんですよね。
他にもアルカンタラ展望台とかビカのケーブルカー(これ↓とトップの写真の場所)とか、ザ・観光名所が色々映ってました。

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リスボンは全体的に「美しいヨーロッパの都市」というよりは、もっと雑多で小ぢんまりとしていて、日本でいうと横浜ぐらい?の、地方都市といった感じでした。でもアルファマ地区やバイロ・アルト地区など路地好きにはたまらないスポットがあって、バイシャ・シアードあたりのような一応都会的な、ローマみたいなエリアもあって、海もあって、一都市で色々楽しめる街でした。あと日本人はおろかアジア人が全然いないので、ちょっと穴場感も欲しいときにはぴったりだと思います。ごはんもおいしいし。イタリアとかフランスは日本人だらけですからね(フランス行ったことないけど)。

最後に私がポルトガルに行こうと思ったきっかけとなった岸田繁のポルトガル(主にファド)体験談を貼って終わります。映画の中でもファドちょっと流れてました。私もファドハウス行きましたが思い出すと泣きそうになるぐらい多幸感に溢れた体験でした。
Daisy Holiday(細野晴臣のラジオ) Playlist-2013.3.112013.3.18

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『リスボンに誘われて』:日常から一歩踏み出してみる(リスボン旅行記含む)」への6件のフィードバック

  1. くつしたさん、こんにちは。

     まだ、死の自覚を意識するには至らないながらも、くつしたさんが「まず思ったのは、『50~60歳代になってから観たら全く違う感じ方をしたかもしれない』ということ」とお書きの当の世代にある身からは、お若い方の視線として、とても興味深く読みました。“「日常を抜け出して冒険に出る」感へのあこがれ”が軸になり、衝動から始まったライムントの行動が“物凄く能動的”と映るわけですよね。実にもっともな話だと思いつつ、自分にはそう映って来なかったことの妙味に、思い掛けなくも気付かせてもらうことが出来ました(礼)。

     僕には何故、ライムントの“あこがれ”や“能動性”というものが湧いて来ずに、“偶然性”や“ライムントの人生の役割”といった捉え方のほうが浮かび上がったのかが、非常に興味深いところです。これこそまさに、くつしたさんが「まず思った」とお書きの点に繋がることなんだなぁと、大いに刺激を受けました。ライムントの衝動の底にあったものが何なのかは、くつしたさんが解しておいでの形のもののほうがむしろ順当な気がするのに、僕が本作に心惹かれたのは、そういう順当さとは異なるところにある“ある種の運命性”といったものが宿っている作品だったからなのかもしれない、ということに気づかせてもらったような気がしております。

     どうもありがとうございました。 

    • ヤマ様
      コメントありがとうございます!そうなのですか、ライムントと同世代くらいの方からすると、“偶然性”“ライムントの人生の役割”ということが連想されるのですか。やはり私にはまだまだ早い作品だったのかもしれません・・・(苦笑)。しかしながら、(一応)若い世代にとっては“もう一つの人生は案外すぐそばにあるかも”というようなメッセージのように受け止められて、大人の方には“人生の役割”などのメッセージを感じ取ることができる、というのは、やはり素敵な作品だということなのではないかとも思います。世代によって感じ方が違うというのは素敵なことでもありますよね。ジェレミー・アイアンズが、老紳士な佇まいながら、若い世代にも十分に自分を重ね得るような、不思議な魅力を発していたからかもしれません。また新しい視座が開けました、ありがとうございました!

      •  >世代によって感じ方が違うというのは素敵なことでもありますよね
        もちろんです。
        現に僕は思わぬ妙味に気づかせてもらえましたし、言われてみれば、そっちが順当じゃないかとの気づきも得られたのですからね。

        それはそうと、上述では書き漏らしておりましたが、過日の更新で、こちらの頁を拙日誌からの直リンクに拝借しております。報告とお礼が後先になってしまいました(詫)。どうもありがとうございました。

      • ヤマ様
        こちらこそ新しい捉え方を知ることができてとてもうれしいです。そしてリンクをありがとうございます!URLが長いですね・・・申し訳ありません。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

  2. はじめまして。
    つい先日、WOWOWでこの映画をみました。
    で、映画についてGoogleで検索していて、ここに着いた次第です。
    映画の写真も、貴方の写真も、とてもリアルにリスボンを感じさせてくれました。ありがとうございます。

    私がリスボン/ポルトガルを歩いたのは2013年5月。
    その時の写真は6枚ずつアルバムにして160組ほどアップしてありますので、覗いていただいたら、なつかしいものを見つけてもらえるかもです。
    http://blog.goo.ne.jp/akita_1950/s/%A5%EA%A5%B9%A5%DC%A5%F3

    映画は恋愛が主なるストーリーで、政治状況や人生などの視点はあくまで普遍的な愛を描くための副次的な条件でしかないとみました。だからこそリスボンなのだと思えます。

    また、寄らせていただきますね。

    • はじめまして!お返事がとても遅くなり申し訳ありません。
      ブログ拝見しました!素敵な写真だらけで、うっとりしてしまいました。リスボンの写真は、「ここ歩いた!」という記憶のあるところもあって、懐かしさでいっぱいになりました。スペインにも行かれたのですね。羨ましい限りです。
      また、北海道の写真もとても美しく素敵ですね。子供の頃北海道に住んでいたので、こちらもとても懐かしく拝見しました。こちらこそ、また覗かせていただきます。コメントをありがとうございました!遅くなって本当に申し訳ありませんでした!!

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