『フライト・ゲーム』:サスペンスとしては最高に面白かったけど

nonstop

2014.9.7 新宿ピカデリー

『フライト・ゲーム』/ジャウマ・コレット=セラ/アメリカ/2014 ★★★

大好きな航空パニック。面白かった。面白かったけど、ラスト15分ぐらいで一気に陳腐化。以下、完全ネタバレで感想を書きます。

アメリカ航空保安官のビル・マークス(リーアム・ニーソン)は、飛行機内で「1億5000万ドル送金しなければ、20分ごとに機内の誰かを殺す」との匿名メールを受信し、悪戯ではないと判断、すぐさま犯人を探し始めます。しかし一体誰が犯人なのかわからないまま次々と一人ずつ死んでいき、おまけに送金先として犯人が指定した口座の名義人はビルになっているとの情報が入り、ビルがハイジャック犯にされてしまいます。そのため乗客もビルの犯人探しに非協力的で、真犯人が誰なのかが一向にわかりません。そうこうしているうちに機内には爆弾まで仕掛けてあることが判明します。

まず、ビルの人物造形ですが、「娘を亡くした悲しい過去を持ち、それがきっかけでアル中となり警察官を辞職し、数年後航空保安官に転職、情緒不安定で危険なところがあるが根は優しく正義感が強い男」という感じで、まぁ紋切り型です。この「娘を亡くした悲しい過去」の使われ方も紋切り型です。不信感でいっぱいの乗客に向かってこの過去を自ら吐露することにより、彼らがビルのことを再び信用するきっかけとなると同時に、映画の外では観客を泣かせるポイントとして使われています。なので「泣いてたまるか」と思いましたが少しウルウルしました。しかしこのへんの作りはかなり既視感たっぷりで、特段面白くはありません。

ですが、二転三転するサスペンスフルな物語の進行はかなり面白かったです。その時々で「怪しい奴」が移っていくのでこちらは気持ちよく翻弄され、中盤は登場人物全員が疑わしく見えました。あと、犯人とのやり取りは携帯で行われるのですが、その小道具としての使われ方や、乗客の一人が機内の映像をネット上にアップしたことがきっかけで真犯人を発見する、というのも現代らしく自然でした。飛行機内の閉塞感もよく出ていたし、縦長の空間も上手く使われていたと思います。

で、問題はラストです。私が気になったのは主に次の2点です。

1.犯行動機が弱すぎる
犯人が語った動機は、うろ覚えの箇所もありますが、だいたい「9.11のときに国民を守れなかった。親父はあの時死んだ。俺もイラク戦争に行ったが、意味を見いだせずに帰ってきた。この国は嘘をついている。(元警官で現航空保安官である)お前はその象徴だ。だからお前は国民を守れないことを証明しながら死ぬんだ!」という感じでした。なんていうか、怒りを向ける矛先が間違ってるし、なぜビルがその象徴なのかも不明です。ブッシュやオバマを憎むならわかりますが、元警察官で現航空保安官って、そういう意味ではかなりの小物だと思うのですが、なぜわざわざそこを狙ったのでしょうか。まぁ精神的にイカレてるんだとは思いますが、どうも腑に落ちません。

2.「犯人を殺したのでビルはヒーローです」という結末はどうなのか
これは私が一番気になった点です。一度は犯人にされてしまったビルが、真犯人を探し出して殺害、乗客を守ったわけですが、ラストで流れるニュースでキャスターが「彼は犯人ではなく真犯人を殺したヒーローです」と言っていました。確かに真犯人はビルに向かって銃をバンバン撃ってきて、殺すか殺されるかみたいな状態だったので、ビルが彼を殺したのは正当防衛だと思います。しかし、本当なら、殺さずに捕えて裁判にかけなければいけないはずです。だから真犯人を殺したのは「仕方がなかった」としても、「殺したからヒーロー」というのは違うはずです。でもこの映画では「殺したからヒーロー」という文言を違和感なく、ハッピーエンドのような調子で挿入していました。これでは、この映画は犯人の動機によって一見「アメリカは国民を守ることができない国だ」という問題提起をしているように見せかけても、結局は彼が勝ち、ヒーロー扱いされるのであれば「やっぱりアメリカは国民を守ってくれる強い国ですね!正義のために悪いやつを殺すとヒーローになれます」と言っているのと同じではないですか。
アメリカという国は、丸腰のビンラディンを、裁判にもかけずに殺したことに何の疑問も持たないような国なので(日本もですが・・・)、どうも私はそのへんにいちいち過剰に反応してしまいます。でも『スタートレック・イントゥ・ダークネス』では、「(悪いことをした奴だからって)裁判にかけずに殺してはいけない」というセリフがあって、私はそれもビンラディンのことを言っているのだと捉えて「やっぱりアメリカのこういうところはすごい」と思ったりもしたのですが。

なので、面白いことは面白いです。でも、何の中身もない映画です。エンターテイメントに徹しているのでそれはそれで良いのですが、ラストはあまりにも軽率という気がします。真犯人は、撃たれたけど命は無事で、逮捕されて「あなたには黙秘権があります云々」の説明がされて(『キャプテン・フィリップス』みたいに)、ああ、これから裁判にかけられていくのだな、というラストだったら随分良かったのですが。

9/21追記
キネ旬星取表にて、荻野亮氏が「秀逸なのは、醜聞か美談の報道文体しか持たないテレビメディアの醜悪さを正確に突いた点であり、そこはもっと焦点化されて良かった」と書いていて、なるほどそう観ることができるのか、と思いました。映画内では全くそう読めるような説明的演出は無いので、気付く人にしか気付けない見方だとは思いますが、気付きたかった!ただそれが「殺したからヒーロー」の部分まで含めて醜悪さとして描かれていたのかはわかりませんが…。

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