『白ゆき姫殺人事件』:“善良な市民”という名の魑魅魍魎を描いた快作

shirayukihime

2014.4.29 丸の内ピカデリー

『白ゆき姫殺人事件』/中村義洋/日本/2014 ★★★★

面白かった!!一人の美人OLが殺害された事件をめぐる色んな人物の証言が容疑者を作り、さらには容疑者の「人物」まで作っていく。その過程が見事に描かれていました。エンターテイメント性ももちろん抜群だし、最後まで先が読めない展開も見事でした。正直綾野剛目当てで観たようなところもありましたが、大収穫です。何より本当に爽快な映画でした。何が爽快かは後に書きます。(少しネタバレかもしれない箇所があります。)

ストーリーは、とある化粧品会社の超絶美人OL三木典子(菜々緒)が惨殺されることから始まります。社内では、三木の同期社員であり事件当夜から失踪している地味な女・城野美姫(井上真央)が犯人と目されます。二人の後輩である狩野理沙子(蓮佛美沙子)が、テレビ局の契約社員であるチャラッチャラの友人・赤星雄治(綾野剛)に、社内で犯人と目されている城野のことを話します。赤星は他の社員や城野の実家、実家の近所の人などにインタビューをして回ります。

こういう「人によって証言が食い違い、結局何が真実なのかは神のみぞ知る」「現実というものはかくもその存在の危ういものである」というような内容は、黒澤明が『羅生門』で1950年に既にやっているし、もっといえばその原作である芥川龍之介の『藪の中』は1922年に発表されているので、さほど目新しいものではありません。しかしこの『白ゆき姫殺人事件』の何が面白いかというと、この映画が、そのテーマのまさに「現代版」を描いている点です。この映画は、「真実が何なのかわからない」というところよりは、「複数の人物みんなが一人の人物に関して少しずつ焦点をずらした証言をすることで、全く別の人物が作り上げられる」ことに主眼を置いています。そしてそこに覆いかぶさるように、Twitterという誰もが匿名で、自分の言葉に全く責任を持たずに発言することができるSNSが加わり、「美人OL殺しの犯人、城野美姫」という物語が一層加速度を付けて形成されていく過程を、赤星というTwitter中毒のチャラッチャラでペラッペラの男を軸に描いています。

はじめにこの映画を「爽快な映画」と書きましたが、一体なぜそんな感想を抱いたかというと、「匿名の一般人」の恐ろしさを、悪意すら感じる描き方であぶり出しているからです。Twitter上で、あたかも事件の当事者かのように「犯人死ね」などと容疑者叩きをする光景には実際に見覚えがあります。そしてそれが事実でなかったとわかったときも、その報道をしたマスコミに対して「謝罪しろよ」というような、「自分は事件と全く関係がない」という立場からの発言(ツイート)をします。そりゃまぁそうです、本当に事件とは関係がないんだから。これも実際によく見かけます。しかし、本当に事件とは関係がないのに、なぜ当事者であるかのような発言ができたのでしょうか。これはTwitterなどの匿名性の高いSNSでは特にそうですが、しかしそれに限ったことではないと思います。要するに、「吊るし上げ」だと思うのですが、今の日本は(って海外に住んだことないから比較できませんが)、「吊るし上げ」が好きすぎる、ということを私は思います。何か「批判されてしかるべき(と思われる)人物や組織」を見つけるや否や、飛びつくような勢いで匿名の「正義の」人達が群がり、まるで実際に被害に遭ったかのように、自分たちは少しも間違っていない、というような顔をしてその対象を潰しにかかります。「その人がいかに悪人か」という物語を作り上げるわけです。これを大滝詠一氏は「魑魅魍魎が群がってくる」と表現していましたが、まさにその通りだと思います(【ネタバレかも】→だからこそラストで赤星は城野に気付かなかったのだと思います。このシーンは、赤星が筆頭になって作り上げた「城野美姫」と、現実の城野美姫が全然別人であったことを示していると思います。)。東日本大震災後も結局それの連続でここまで来ているような気がしてなりません。私には、この映画がそこまでのことを伝えているように思えました。そこが『羅生門』とは違うところで、実に爽快です。いや、もっといえば痛快です。ただ、だからこそ結局は城野の独白によって事件の事実と詳細が明らかになる、という構造は残念でした。本来であれば、それも本当かどうかわからないはずではないでしょうか。

最後に、俳優陣について書きます。井上真央、こんなに上手かったんだ!というぐらい上手いです。というか女優です。自分を少しも綺麗に見せていません。ちょっと変なんじゃ?というぐらい地味でおとなしい女を見事に演じていました。そして綾野剛、やっぱり綾野剛!チャラすぎて綾野剛なのにイライラしたぐらいチャラさがよく出ていました。なんでもかんでもツイートする奴、そして注目を集めて有頂天になってる奴。なんて薄っぺらい奴なんだろう。『そこのみにて光輝く』とは全然違う役どころでしたが、『そこのみにて~』のほうはこれまでの綾野剛像とだいたい同じなのに対し、この赤星は結構イメージと違っていて、でもかなりハマっていて最高です。菜々緒は大根ですが美人です。そして実は野村佑香が出ていたことに気付いた人はいるのでしょうか?エンドクレジットで野村佑香、と出て「えっ!?」と思って思い返して、「あいつか!」と、やっとわかったという感じでした。役のせいかめちゃくちゃ平凡でしたが、でもうまかった。

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