ある過去の行方

thepast

2014.4.19 新宿シネマカリテ

『ある過去の行方』/アスガー・ファルハディ/フランス・イタリア/2013 ★★★★

安定の面白さ!ベレニス・ベジョの演技はこれまでで最高だと思うし、ポリーヌ・ビュルレなど周りの人物も素晴らしい演技でした。子役も素晴らしかった!

ファルハディ作品は『彼女が消えた浜辺』(2009、ベルリン国際映画祭銀熊賞)と『別離』(2011、アカデミー賞外国語映画賞受賞)を観ましたが、作風の特徴として、会話の中から人間の心理と同時に物語の重要な出来事を次々と明らかにしていく、という、なんだか物凄い監督だと思っていました。

イランの映画監督といえば、モフセン・マフマルバフとかアッバス・キアロスタミとか、大雑把な分け方をすると「芸術映画」に分類される監督が多いと思います。それらの監督による作品の多くは、わりと淡々としていて派手なアクションなどは無く、人物の会話やドキュメンタリー風のカメラによって映画が進行するような映画で、その質が非常に高いので世界的に評価されています。

で、このファルハディ監督はといえば、確かに会話劇中心で、派手な演出もありません。が、エンターテイメント性が抜群に高いです。なんといっても、これまで私が観てきたイラン映画にはみられなかった、「サスペンス」という要素があります。マフマルバフとかキアロスタミとかは、勿論作品にもよりますが、わりと普段から映画が好きでよく観ている人でないとしんどい物も結構あります。よく観ている人でも体調によっては寝てしまいかねません。マジッド・マジディ作品とかは観客を選ばない感じではありますが、あれはヒューマンドラマです。サスペンス性はありません。しかしこのファルハディ監督の作品には、サスペンス性があるのです。それもいわゆる「大どんでん返し」付きです。

『彼女が消えた浜辺』と『別離』はイランで撮られた映画なので、サスペンスの内容もイランという国の文化に即したものになってます。前者はイラン女性の貞節、後者はテヘランの貧富の差や介護とイスラム教との相容れなさなどが主題でした。しかしこの『ある過去の行方』はフランスで撮られた映画なので、そういった社会的な主題はありません。主人公の一人であるアーマドはイランからフランスに移り住んでいたイラン人なので、そいういうマイノリティであることは描かれていますが、この映画におけるサスペンス性に直接関係はありません。なので、ファルハディは今回思いっきりサスペンス性に注力したとみえて、脚本が凝りに凝ってます。まぁいつもそうなんですが、今回は大どんでん返しがいつもより多かった!なので、純粋に面白さでいえば最高です。こんな地味な、一見ヒューマンドラマな映画なのに、「えっ!」「なんとまあ!」「そういうことだったのか!」「Oh・・・」の連続な映画は観たことがありません。

しかし、しかし敢えて残念だった点を挙げれば、サスペンス性に注力して脚本を練りに練ったのは凄いのですが、逆にいえば、それありきの映画になっていた気がします。監督の頭には、まずどうやってサスペンス性を組み立てるか、ということが真っ先にあって、とにかくそこを中心にして作られた映画のように思えました。いや、でも登場人物たちの人間性なんかも重層的に描かれているし、物凄いクオリティではあります。ただベレニス・ベジョ演じるアンナ=マリーが、あれじゃただの男にだらしがないヒステリックな女だし、もう少しそうせざるを得ない必然性が欲しかったところです。これは家族の物語で、アンナ=マリーはその中心にいる人物なわけだし。あと、あのラストについては私は良いと思いませんでした。唐突な印象が拭えないからです。人間関係の絡まりをひも解いていくサスペンスフルな脚本が基にあって、でもラストはやっぱりヒューマンドラマにしたい、ということで無理矢理付けたように思えました。

ファルハディ監督はこの作品を撮ったあと、またイランに戻って映画を撮ると言っているそうです。これは嬉しいです。やっぱり、私はキアロスタミもイラン時代の作品のほうが断然好きです。でも、監督たちにとては、イランでは厳しい検閲により自由に撮ることが難しいわけなので、私のこういう感情は外国人による無責任な異国趣味なのかもしれません。単純にイラン国内をもっと観てみたいというのがあるんですが、まぁでもなぜ見てみたいかといえば、イスラムの国が日本とは全然違うから見てみたいのであって、それはやっぱり異国趣味なんだと思います。ところで、検閲が厳しいとかアメリカと仲が悪いとか、そういう話ばかり聞くとイランという国に随分保守的な、マイナスなイメージが付いてしまいますが、実際に行った人は口をそろえて良い国だったと言うみたいです。人がみんなめちゃくちゃ親切らしいです。ジャーメ・モスクとかも見てみたいし、行ってみたすぎる。話それたけど終わります。

 

広告

ある過去の行方」への1件のフィードバック

  1. 報告とお礼がすっかり遅くなりましたが、先の拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借しております。

     >監督の頭には、まずどうやってサスペンス性を組み立てるか、ということが真っ先にあって、とにかくそこを中心にして作られた映画のように思えました。

    流石ですね。核心を衝いているように思います。最後のショットには僕も呆気にとられました(笑)。
    でも、凄い監督だとの思いは僕も同様です。

    どうもありがとうございました。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中